2022/08/13

オノマトペの認知科学

秋田喜美+内村直之(ファシリテータ)2022『オノマトペの認知科学』新曜社

オノマトペ、ミメティック、イデオフォン、音象徴(sound symbolism)、日本語ならば擬音語・擬態語、などなど微妙に異なりつつも多くは重なる現象についての研究はきわめて多く、かつまた充実している。そんなオノマトペ現象について、日本における現役では第一人者といってよい秋田氏による入門書。「認知科学のススメ」シリーズの第9巻に当たる。

 

SFCでは今井むつみ氏の研究チームがオノマトペ関連の研究を行っているし、仲谷正史氏の研究チームでは触覚を工学的な手法で研究するにあたり、オノマトペの研究もさかんである。さらに言えば、いつぞや湘南台からキャンパスへ向かうバスの中で、『オノマトペ研究の射程』を熱心に読んでいる人がいたな。たぶん学生さんだろうが、声をかけておけばよかったか?と思わんでもない。とても楽しい研究環境である。

私自身はオノマトペ関連について論文を書いたことはないのだが、アメリカの留学先にはSound Symbolismという本を編むような教授陣がいたり(Leanne Hinton, Johanna Nichols, John J. Ohala−−今更ながら、すごいメンバーだ)、微妙に縁がある。類像性(iconicity)一般にまで話を広げれば、学生のころはJohn Haimanの一連の著作(これとかこれとか)を読み込んだり、文法構造の類像性についてはいくつか論文を書いたりと、認知言語学的な方面に興味をもつようになった縁の初めが類像性関連だったのは間違いない。

おまけ。Mark Dingemanseというアフリカの言語を専門とする研究者がいる。彼は秋田氏とは世代も近く交流のある研究仲間で、共同研究も行っている。彼を含む、Max Planck Institute for Psycholinguistics (Nijmegen)の研究チームが2015年に発表した"Is 'huh?' a universal word? Conversational infrastructure and the convergent evolution of linguistic items"は同年のイグノーベル賞を受賞した。この論文が発表された媒体はPLoS Oneであり、冗談で書いた論文が載るようなところではない。背景となる理論的文脈を把握していさえすれば、重要な科学的貢献であることがわかる。受賞した前後の実況についてはこちらを参照。秋田氏によれば、受賞直後はDingemanse氏のオフィスは電話が鳴り止まず、メールは溢れかえり、大変だったそうである。なお同氏は今年になってHeineken Young Scientists Awardを受賞した。日本でいうと酒造つながりでサントリー学芸賞?と言えなくもない。