2021/08/21

なぜヒトだけが言葉を話せるのか

 トム・スコット=フィリップス 2021『なぜヒトだけが言葉を話せるのか』東京大学出版会

原題はSpeaking Our Minds. 言語進化についての研究は今世紀に入ったあたりから爆発的に増え、正に百家争鳴の時代が続いた。今なお盛んな分野であるが、ひところに比べると「何でもあり」状態からは脱却できたようだ(が、直近の研究成果はあまりチェックしてないので実は違うかもしれない、と予防線を張っておく)


そんな中、人間言語の本質について掘り下げた考察の一つが本書。他者の心的状態への洞察が人類が得た最重要の認知能力であるとする考えは、本書の著者が研究員としてすごしたマックス・プランク進化人類学研究所のマイケル・トマセロが幾多の著作を通じて主張してきた(例えばこちらを参照)。本書は言語学だけでなく、コミュニケーションと関わりのあるあらゆる分野の読者にとってお役立ちとなること間違いなし。

 

実験認知言語学の深化

篠原和子・宇野良子(編)2021『実験認知言語学の深化』ひつじ書房

深化は進化でもあり、また真価でもあり。はたまたヤクルトスワローズの監督の現役時代の決め球でもあり。

と、駄洒落を並べたが、編者の一人の篠原氏は駄洒落および言葉遊びの名手である。本書冒頭の序文は、壮麗な回文となっているのでぜひご覧あれ。 なおジャケットもなかなかの出来映えである。やればできるじゃん>ひつじ書房。

 

内容は題名通り、認知言語学のさまざまな論点について、実験的方法で取り組んだ優れた研究を集めている。篠原氏と宇野氏は勤務先が理科系の国立大であり、ラボでの実験や物作りを推進する環境の中に身を置いているというのも大きい。だが、重要なこと(多くは新しいこと)を主張するさいに、客観的・経験的裏付けをとることは当然ながらあらゆる研究環境で必須である。本書はその様々な可能性を示してくれる。

なお、言葉遊びといえば、以前いろは四十七文字を使って歌らしきものを作ってみたことがある。その時は存在しない活用形を一つ作って誤魔化さざるを得なかった。無念。修正版を作るのは老後の楽しみにとっておこう。