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2025/07/25

SFC研究会(アーカイブ)

【2025年3月の定年退職に伴い、研究会は閉店しました。認知・機能言語学の入門者向けの情報ソースとして残しておきます】

ようこそ、言語科学の研究会へ! 言語研究の参考となるような情報は、随時Tidbitsタグをつけてここのサイトに公開していきます。また、認知言語学関連のメタリンクも用意しました。卒業プロジェクトに取り組んでいる人、これからテーマを探して深める人、それぞれだと思われるので、進度に合わせて授業時間を有効活用したいと思います。

 
2024年度について:今年度は原則として新規募集は行いません。特に希望がある場合は別途相談ください。(4/5/2024更新)
 
2023年度について:「語法・文法」をやります。各人が特定の語や構文について、調べて考察する予定です。「語彙意味論」・「認知言語論」の履修者を優先的に受け入れます。(12/14/2022更新)
  • 構文研究メモ」を公開しました。このメモで取り上げているようなことを研究会では行います。研究会に新規加入の際は、春学期で取り組む構文に当たりをつけておくとより楽しく研究できると思います。
  • 日本では優れた「語法研究」の伝統があります。今日私たちが非常に優れた、情報量の多い辞書が利用できるのも、英語参考書などで語法の細かい使い分けについて丁寧な解説がされるのも、この分野の先人のお陰です。その集大成が、『英語語法大辞典』第1-4集, 大修館書店。語学好きならぜひ現物を手にとってください。また、個人による語法研究の本もたくさん出ています。とりあえず、私の本棚にあるものをいくつか紹介。
 
柏野健次. 1993. 『意味論から見た語法』. 研究社.
田島松二 (編). 1995. 『コンピューター・コーパス利用による 現代英米語法研究』. 開文社.
田中廣明. 1998. 『語法と語用論の接点』. 開拓社.
八木克正. 1999. 『英語の文法と語法−−意味からのアプローチ』. 研究社
内木場努. 2004. 『「こだわり」の英語語法研究』. 開拓社.
 
図書館などで見て、語法研究の面白さにふれることを期待します。
  • 英語語法研究といえば、洞察の鋭さと用例の周到さにおいて最高位にあるのがこの一冊(残念ながら絶版だが図書館にはある)。
Bolinger, D. 1977. Meaning and Form. London: Longman (中右実 訳. 1981.『意味と形』こびあん書房) 
 
日本の辞書・語法研究者に信者は多く、私もその一人です。アメリカにいた時にBolinger氏からLanguage: The Loaded Weaponの扉にして頂いたサインは家宝となっています。
 




1)SFCのメディアセンターには、2024年度まで、研究会の「指定図書」コーナーを作ってもらうようお願いしていました。以下が本のリストです(文中敬称略)。【現在はこのコーナーは存在しませんが、紹介の文章を残しておきます】。

【言語学全般の入門】
  • 郡司隆男・西垣内泰介(編)(2004)『ことばの科学ハンドブック』研究社
  • 佐久間淳一・町田健・加藤重広(2004)『言語学入門:これから始める人のための入門書』研究社
  • 大津由紀雄(編)(2009)『はじめて学ぶ言語学:ことばの世界をさぐる17章』ミネルヴァ書房
  • 斎藤純男(2010)『言語学入門』三省堂
  • 窪薗晴夫(編)(2019)『よくわかる言語学』ミネルヴァ書房
[比較的最近のもので、「標準的」な内容の入門書をいくつか。斎藤はカバーする話題が最も広い。郡司他は限られた話題をある程度詳しく解説している。大津は話題のバラエティと説明の詳しさのバランスがとれている。佐久間他もバランスがとれており、具体例も多彩。窪薗は他と異なり、見開き2ページで1つのトピックを簡潔に解説したもの。良書ではあるが、体系的に理解するためには、単独ではなく他の入門書と併せて読むことを推奨。]

【言語学全般の用語辞典】
  • 斎藤純男・田口善久・西村義樹(2015)『明解言語学辞典』三省堂
[「コンサイス」な用語辞典(三省堂だけに)。どんな学問分野でも、多くの術語を正確に知っていないと文献を読むことができないので、購入して随時参照することを推奨。この本でわからない時は、ネットで検索するもよし、図書館で他の用語辞典を見るもよし、あるいは授業で質問するもよし(<これ大事)。なお、寺澤芳雄(編)(2002)『英語学要語辞典』研究社、はより本格的な言語学の用語辞典。認知言語学については、赤松弥生と私の二人で全項目を執筆。用語選定の準備段階でのメモはこちら

【認知言語学の入門】
  • 西村義樹・野矢茂樹(2013)『言語学の教室』中央公論新社
  • 大堀壽夫(2002)『認知言語学』東京大学出版会
  • 籾山洋介(2014)『日本語研究のための認知言語学』研究社
  • 野村益寛(2014)『ファンダメンタル認知言語学』ひつじ書房
[西村・野矢は入門書というよりは対話形式の読み物。最初に手に取るとよいだろう。籾山、野村はどちらも比較的新しい、初級レベルの入門書。大堀は年代的にやや古いが、中級レベルの入門書で、初級よりは扱う範囲が広い点が特徴。入門レベルをクリアしたら、森雄一・高橋英光(編)(2013)『認知言語学:基礎から最前線へ』、高橋英光・野村益寛・森雄一(編)(2018)『認知言語学とは何か:あの先生に聞いてみよう』(どちらもくろしお出版)に進んで、それぞれの分野におけるより新しい進展を知ろう。]

【認知言語学の概観】
  • 池上嘉彦・河上誓作・山梨正明(監修)シリーズ認知言語学入門
  • 辻幸夫(編)(2003)『認知言語学への招待』シリーズ認知言語学入門1 大修館
  • 吉村公宏(編)(2003)『認知音韻・形態論』シリーズ認知言語学入門2 大修館
  • 西村義樹(編)(2018)『認知文法論1』シリーズ認知言語学入門3 大修館
  • 中村芳久(編)(2004)『認知文法論2』シリーズ認知言語学入門4 大修館
  • 松本曜(編)(2003)『認知意味論』シリーズ認知言語学入門5 大修館
  • 大堀壽夫(編)(2004)『認知コミュニケーション論』シリーズ認知言語学入門6 大修館
[認知言語学のそれぞれの下位分野を6冊かけてより詳しく解説したもの。年代的にはやや古いが、基礎固めとしては十分。認知言語学の中核となるのが意味論であることを思えば、一冊選ぶなら松本(編)『認知意味論』。この手のシリーズものは、他にも「認知言語学のフロンティア」(研究社)、「認知日本語学講座」(くろしお出版)、「認知言語学演習」(大修館)があるので、適宜参照。なお、第6巻の題名を「認知語用論」としなかったのは、私なりの矜恃である。]

【認知言語学の研究方法】
  • 中本敬子・李在鎬(編) (2011)『認知言語学研究の方法:内省・コーパス・実験』ひつじ書房
[研究のアイデアが出たら、具体的にどのような方法で取り組むかを考えることになる。本書はそのための参考になる。もちろん、これで万事解決ではないので、自分でさらに調べて考えてみよう。]

【認知言語学の用語辞典と包括的な事典】
  • 辻幸夫(編)(2013)『新編認知言語学キーワード事典』研究社
  • 辻幸夫他(編)(2019)『認知言語学大事典』朝倉書店
[上記の『明解言語学辞典』にも認知言語学の用語は取り上げられているが、『キーワード事典』は認知言語学に特化してかなり詳細に用語を解説している。『大事典』は用語の辞書的な解説でなく、認知言語学とその関連分野を網羅的にサーベイした論文集。「認知・機能言語学」を古賀裕章と私が執筆している。]

2)これまでの研究会の参加者から見るに、言語研究の中でも広い観点からのコミュニケーション研究に関心をもつ人が多いようです(語彙や文法の深く鋭く分け入った研究もぜひ見たいところですが)。言語学の中で対人的なコミュニケーションを扱う理論は語用論(pragmatics)の範疇になります。初歩の初歩としては上記リストにある『認知コミュニケーション論』の、私が書いた第1章がおすすめ。
  • 加藤重広・澤田淳(編)2020『はじめての語用論−−基礎から応用まで』 研究社
  • 加藤重広・滝浦真人(編)2016『語用論研究法ガイドブック』ひつじ書房
  • 小山亘. 2012『コミュニケーション論のまなざし』三元社
一つ目の本は本サイトのこのページで紹介あり。複数著者によるものですが、入門書としての統一がとれた良書です。二つ目の本はその先に進もうとするさいの、研究方法が解説されています。これもおすすめ。三つ目の本は言語人類学者による、題名通りコミュニケーションを広く扱った入門書。最初にこれを読んで(やや高度な内容も含まれるが、解説はわかりやすい)、コミュニケーション研究のおおよその姿をつかんでから、言語学的アプローチに入っていくのもよいでしょう。なお、コミュニケーション研究一般については、社会学やメディア研究寄りの入門書がたくさん出ています。「コミュニケーション論/学/スタディーズ」といったキーワードで検索すると色々見つかるでしょう。一つだけ紹介すると:
  • 大橋理枝・根橋玲子. 2019『コミュニケーション学入門』放送大学
この本に限らず、放送大学のテキストは予備知識の(ほとんど)ない受講生に、当該分野の基本知識と考え方を伝える良書が多い。書棚に置いてある書店が少ないのが惜しいところですが、公式ウェブページから探してみるとよいでしょう。ちなみに私の友人にはTVの放送大学講座を見るのを趣味の一つにしている人がいます。なるほど、この人物の知識量(と精度)が並外れているわけだ。
 
3)加えて、インターネットを利用して、言語コミュニケーションに関わる色々な学会のページから、最近の研究発表を見ることをおすすめします。全文掲載されているとは限りませんが、テーマ探しの助けになると思います。
他に、日本語や英語などの個別言語の学会もたくさんあります。英語だけでも英語学会、大学英語教育学会(JACET)、英語コーパス学会など。また、言語学プロパー以外では、ヘルスコミュニケーション学会、スポーツコミュニケーション協会、ビジネスコミュニケーション学会、産業・組織心理学会など、(何となく)SFC的な方向性をもった学会もあって、面白そうです。



4)研究計画の立て方やデータ分析の方法について解説した本も読んでおくとよいでしょう。上に挙げた中本敬子・李在鎬(編) (2011)『認知言語学研究の方法』の他にいくつか紹介します。藤村・滝沢は全般にわたる解説、坊農・高梨は会話の分析を中心にしたものです。Wray & Bloomerはテーマ探しから始めて(言語研究の各分野の紹介つき)、データ集めと分析、さらには研究の発表のまとめ方まで親切に解説しています。Litosselitiは言語研究のさまざまな方法論(質的、量的、聞き取り調査、コーパス分析、等)を紹介したものです。自分が使いたい方法について詳しく学ぶのに役立ちます。Hatch & Lazaratonは新版が出ていないのが残念ですが、基礎的な統計的分析の方法を広く扱っています。これも自分の目的に合った方法を解説した部分を選んで読むとよいです。
  • 藤村逸子・滝沢直宏 (編) (2011) 『言語研究の技法』. ひつじ書房.
  • 坊農真弓・高梨克也 (編) (2009) 『多人数インタラクションの分析方法』. オーム社.
  • Wray, A. & A. Bloomer (2012, 3rd ed.) Projects in Linguistics and Language Studies. London: Routledge.
  • Litosseliti, Lia (ed.) (2018, 2nd ed.) Research Methods in Linguistics. London: Bloomsbury. 
  • Hatch, E. & A. Lazaraton (1991) The Research Manual: Design and Statistics for Applied Linguistics. NY: Newbury House
この他、篠原和子・宇野良子(編)『実験言語学の深化』(2021)は実験方法そのものの解説ではありませんが、実験的方法による新しい研究成果の事例を見ることができます。



5)論文の書式について。さまざまな学会で「投稿規定」の一部として論文の書式=style sheetを決めているので、一つのスタイルに決めて、それに従うこと。例えば英語だと日本英語学会の投稿規定ページは詳しい規定があります(最下部にサンプルのpdfファイルあり)。海外ではAmerican Psychological AssociationやModern Language Associatonのstyle sheetがよく知られています。どちらも正式のガイドブックは有料ですが、ネット上では簡略化した紹介があるので各自で参照することをすすめます。日本語でも多くの学会が公式サイトにスタイルシートを載せています。自分で関心をもった研究がよく出てくる学会のスタイルシートを使うとよいでしょう。出版社の中には自社仕様のものを用意しているところがあります。ひつじ書房の執筆要項はその一つ。もちろん、卒業論文は表紙がついたり、大学固有の規定もあるので、それは各自で確認してください。
 

本研究会では、これまで次の卒業プロジェクトが提出されています。

2024年度
  • 若者言葉における重複表現について
  • 美術への専門性が絵画作品への言及にもたらす影響
  • SNSにおける『界隈』に対する考察~オンラインコミュニティとしての観点・認知言語学の観点から~
  • フレーム意味論に基づく「オタク」の意味分析--「オタク」の意味拡張に関する考察[優秀卒業プロジェクト]
  • 身体醜形概念と(幼少期の)親子関係の関連
2023年度
  • 身体を使ったイディオムと身体論の関係性について
  • 映画キャッチコピーにおける句読点使用の変化と背景考察
  • 在日外国人が漢字に興味を持つ理由を明らかにする
  • 言葉の力から見る『KEIO日本一』 
  • インスタグラム広告における「いいね」獲得方法
2022年度
  • 化粧品におけるカラーネーム考察〜認知言語学的視点から〜
  • SNS 言論が携帯業界の企業活動に与える社会的影響に関する分析
  • 多義語における意味拡張を理解することによる記憶定着への影響とそこから考える日本の英語教育
  • On the Multimodality of English [ADV and ADV] Construction: A Collostructional Approach[優秀卒業プロジェクト]
  • インターネットスラングの認知言語学的考察〜「親ガチャ」を例に〜
  • 日本語におけるコロナウイルスに対する戦争メタファー
2021年度
  • 『不思議の国のアリス』からみる翻訳の日英比較--オノマトペを中心に翻訳者が作品に与える影響について
  • 日本語を第二言語とする日本語使用者の口語特徴の考察
  • バナー広告におけるインプレッション効果を 促進する視覚情報と言語表現のシナジー効果
  • インスタグラムにおけるキャプションの影響力〜認知言語学的観点からインスタグラムを紐解く〜
  • 比喩表現における日米言語の比較
  • 本当に新型コロナウィルスは日本国内で終息を迎えるのか? 〜Twitter を用いたウィズコロナの動向分析〜
2020年度
  • 多義語のパラドックスに関する考察−認知言語学の視点から− [優秀卒業プロジェクト]
  • スポーツの場におけるミスコミュニケーションの分析
  • チームスポーツにおけるコミュニケーション−−複雑なミスの発生要因の分析と解消の考察−−
  • デザインプロセスにおける言葉の役割と創造性について
  • プロとアマチュア記者の記事にはどのような言語学的な違いがあるのか・良い記事にはどのような特徴があるのか
  • 現代版弁論術のすすめ−−人を説得するための技術−−
  • 言語学的観点から見た漫才のツッコミ
  • 動物キャラクターのステレオタイプと役割語を検証−−アニメーション映画「バケモノの子」を用いて−− 
  • 反復練習による、役者の演技の変化について
  • 漫画における感情表現の日・英翻訳比較研究
  • 歴代「角川短歌賞」受賞作にみる現代短歌と家族観

2019年度
  • SNSコミュニケーションによる引きこもりのストレス緩和について
  • イタリア映画の日本字幕における技法とコツとは
  • ノンバーバルコミュニケーションにおける「間」の感性情報心理学・周辺言語
  • 人が表情を読み取るとき、文字と音声情報はどのような影響を与えるのか
  • 認知言語学×スポーツ
  • 漫画『One Piece』におけるキャラクターを 生かす工夫と作品に与える影響(日英比較)
  • 名詞表現の語彙概念拡張に関する考察

2018年度
  • 人間が音楽構成と詞へ与える効果の分析−−ピンク・フロイドの軌跡と音楽−−





2024/09/24

東京言語研究所 理論言語学講座(後期)

2024年度理論言語学講座(後期)についてご案内:

受講期間 10月7日(月)~10週間 19:00~20:40(各講座100分)
※祝祭日は開講しません

課目 【講義概要は研究所ホームページをご覧ください】

月曜: 日本語文法理論Ⅲ 川村大(東京外国語大学教授)

火曜: 語用論 松井智子(中央大学教授)
               生成文法Ⅱ 高野祐二(金城学院大学教授)

水曜: 意味論の基礎 酒井智宏(早稲田大学教授)

木曜: 言語学概論 長屋尚典(東京大学准教授)他4名(各講師が2週ずつ担当)
                語形成と語彙の意味 由本陽子(大阪大学名誉教授)

金曜:  英語史概論 堀田隆一(慶應義塾大学教授)
                言語哲学 峯島宏次(慶應義塾大学准教授)

講義形式: ZOOMによるオンライン講義 ※ZOOMはリアルタイムのみの配信です
受講料:1課目 25,000円(税込)※学生半額

お申込み  https://www.tokyo-gengo.gr.jp/
申込受付期間 9月30日(月)10:00AMまで

【来年(2025年度)は私も担当予定です。年明けに詳細が公開されると思います】

2024/08/07

構文理論 基礎から応用へ

Hilpert, Martin (2019, 2nd. ed.)  Construction Grammar and its Application to English 邦訳. 開拓社.

9月に出ます。しばしお待ちを。 日本認知言語学会でお披露目となりました。

書店にも出ました。大学生協にも入れてもらう予定です。


 

2023/06/19

認知言語学(中国語版)

大堀壽夫. 2023. 中国語版『認知言語学』商務印書館.

数年前に始まった企画で、今年無事出版された。中国サイドもCOVID-19やら何やらの苦労は少なからずあったことと思う。あらためて翻訳の労をとって下さった方々には深く感謝したい。

中国語版の「緒言」はこちら。自分自身が、過去と未来を繋ぐ役割を2023年において果たしているかは心許ないが、 時間と能力の範囲でやれることをやるだけである。


2022/12/31

社会言語学の枠組み

井上史雄&田邊和子 (eds.) 2022 『社会言語学の枠組み くろしお出版.

社会言語学という分野は歴史も長く、研究者の裾野も広い。概説書も充実している…と思っていたが(いや、それはそれで確かなのだが)複数著者による広い範囲をカバーしたコンパクトな入門書は案外見かけない。ちょうどいいタイミングで出てくれた本と言える。

 

 

学部の言語関連の入門的授業(「言語」とか「言語と文化」とか「言語と人間」とか)で使うのにも好適。「社会言語学」と銘打たない授業で使い、初手からこの分野に引き込める。

社会言語学の基本トピック−−性差、年代、地域、場面、などの社会学的属性と言語の関係−−に加えて、意味論(堀江)、語用論(小野寺)、談話分析(メイナード)と通じるトピックが含まれており、 その意味でも言語一般の授業には向いている。同時に、社会言語学を専攻するようなゼミや演習では、この本をバックグラウンドリーディングとして指定することもできるだろう。個人的には国際化社会における言語接触についての章があるとよかったと思うが、関連トピックは第3章「言語間の格差」でカバーされているので、そこを切り口にサーチすることもできるだろう。

 

Key Concepts in Experimental Pragmatics

Yoichi Miyamoto, Masatoshi Koizumi, Kazuko Yashiro, and Uli Sauerland (eds.) 2022. Key Concepts of Experimental Pragmatics. Kaitakusha.

通常科学というものが仮説、実験、検証、という手続きを踏むものだとすれば(もちろんここに「思弁」や「形式化」も加わる)「実験的」という形容をするのは冗長とも言える。研究者個人の内省に訴えることが効率的な「心理実験」であるというような戯れ言はもはや通用しない。本書はそんな時代の過渡期にあって、アプローチは多様であるが、語用論の諸問題に通常の意味で「経験的」な方法で取り組む試みを集めたものである。

 

方法論の探索という点では、第二部が演習などで使いやすそうだ。章題だけ再録すると:Event-related potentials, Self-paced reading method, Experimental pragmatics using Functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI), Cross-linguistic formal pragmatics, Computational modeling, Statistical methods for experimental pragmatics, Experimental methods for the acquisition of pragmaticsとなる。全く同じことをやるのは難しいにしても、主観的移動、比喩的意味、ブレンディングなど、認知意味論の研究トピックもまたこうした方法論で研究することは可能だろう(興味深い実績が出ているのも知ってはいるが、今後はさらに増えることを期待)。

2022/09/27

勉誠出版 創業55周年謝恩セール

勉誠出版 創業55周年謝恩セール 2022年9月27日(火)~2022年12月26日(月)

出版社トップページはこちら

歴史、民俗、国文系に興味のある方はぜひ。

まさに分野横断の成功例。ちなみに勉誠出版からはアジア地域の言語についての研究書も出ている。そのうち授業で話題にするかも。

 


 


2022/08/13

ジュニア英文典

毛利可信 2022『ジュニア英文典』研究社

初版1974年、新装版1981年、そして今回の復刻版。帯の宣伝には「すべては基本から。伝説の英文法書、名著復刊!」とある。このまま。それ以上言うことはない。

自分は受験目的でなく、学部か院のころに買ったような記憶がある。その後いつの間にかなくしてしまったので、これ幸いにとばかり買い直した。事典レベルの大きな英文法書はいくつか持っているのだが、いわゆる学習参考書レベルのものはほとんど持っていないし、手元に一つ置いておくにはよいかと。あと、大部だが片手で一応持てる本だと、Renaat Declerck『現代英文法総論』はよく使う(私の興味分野である従属節関連が充実しているので)。

この毛利氏の本、「学習参考書」というだけでなく、大学生なり社会人なり、あるいは英語を何らかの点で専門とする者にとっても、とても有用である。毛利氏は言語学者・英語学者として優れた仕事を残された方なので、それも当たり前といえば当たり前だが。研究社は名著をホイホイと絶版にするような会社ではないと知ってはいるが、興味がある人はお早めに。 


オノマトペの認知科学

秋田喜美+内村直之(ファシリテータ)2022『オノマトペの認知科学』新曜社

オノマトペ、ミメティック、イデオフォン、音象徴(sound symbolism)、日本語ならば擬音語・擬態語、などなど微妙に異なりつつも多くは重なる現象についての研究はきわめて多く、かつまた充実している。そんなオノマトペ現象について、日本における現役では第一人者といってよい秋田氏による入門書。「認知科学のススメ」シリーズの第9巻に当たる。

 

SFCでは今井むつみ氏の研究チームがオノマトペ関連の研究を行っているし、仲谷正史氏の研究チームでは触覚を工学的な手法で研究するにあたり、オノマトペの研究もさかんである。さらに言えば、いつぞや湘南台からキャンパスへ向かうバスの中で、『オノマトペ研究の射程』を熱心に読んでいる人がいたな。たぶん学生さんだろうが、声をかけておけばよかったか?と思わんでもない。とても楽しい研究環境である。

私自身はオノマトペ関連について論文を書いたことはないのだが、アメリカの留学先にはSound Symbolismという本を編むような教授陣がいたり(Leanne Hinton, Johanna Nichols, John J. Ohala−−今更ながら、すごいメンバーだ)、微妙に縁がある。類像性(iconicity)一般にまで話を広げれば、学生のころはJohn Haimanの一連の著作(これとかこれとか)を読み込んだり、文法構造の類像性についてはいくつか論文を書いたりと、認知言語学的な方面に興味をもつようになった縁の初めが類像性関連だったのは間違いない。

おまけ。Mark Dingemanseというアフリカの言語を専門とする研究者がいる。彼は秋田氏とは世代も近く交流のある研究仲間で、共同研究も行っている。彼を含む、Max Planck Institute for Psycholinguistics (Nijmegen)の研究チームが2015年に発表した"Is 'huh?' a universal word? Conversational infrastructure and the convergent evolution of linguistic items"は同年のイグノーベル賞を受賞した。この論文が発表された媒体はPLoS Oneであり、冗談で書いた論文が載るようなところではない。背景となる理論的文脈を把握していさえすれば、重要な科学的貢献であることがわかる。受賞した前後の実況についてはこちらを参照。秋田氏によれば、受賞直後はDingemanse氏のオフィスは電話が鳴り止まず、メールは溢れかえり、大変だったそうである。なお同氏は今年になってHeineken Young Scientists Awardを受賞した。日本でいうと酒造つながりでサントリー学芸賞?と言えなくもない。


2022/05/25

ダイクシス講義

チャールズ・J・フィルモア 2022『ダイクシス講義』開拓社

原著は1997年にCSLIから、オリジナルは1971年に行われた連続講義Santa Cruz Lectures on Deixisで、それを文字化した準公式版が1975年に出ている。「準」というのはネット時代では想像しにくいが、正式の出版社ではなくIndiana University Linguistics Clubという「同人」が著者の同意を得て限定部数を印刷して通信販売していた時代の公開形態をさす。自分は1997年版を持っていたが、今年になって日本語版が出た。オリジナルの「同人版」から50年近く経っての邦訳、目出度いことである。

 


ダイクシスは言語学の中で重要ではあるが包括的な理論化が長らくなされずにいた。1980年代にダイクシスについて包括的な枠組みを提示していたのはStephen Levinson (1983) Pragmatics. Cambridge UPの第2章だったが(院生時代ヒマだったんでじっくり読んだ)、この章はほぼまるごとフィルモアに準拠している。直近ではLeonard Talmyによる移動表現の語彙類型に対するアジア言語からの重要な修正としてダイクシス動詞(日本語ならば「行く」「来る」)の位置づけがさかんに論じられている。一例として国立国語研究所のこちらのプロジェクトを参照。優れた研究というのは時代が変わっても読み直してそこから重要な洞察を得ることができる。本書はその典型例と言える。

それだけではない。この日本語版、訳者解説が素晴らしく充実している。フィルモアの事績については包括的に解説したものがあまりないのだが(2006年に東京でのICCG 4開催に合わせて『英語青年』2006年9月号に掲載されたインタビュー「第4回国際構文理論学会開催記念――Charles J. Fillmore 教授に聞く(聞き手・翻訳: 長谷川葉子/小原京子)」は希有な例外)、そのギャップは澤田氏の情熱あふれる解説によって見事に埋められた。こちらの記事で「フレームとは何か、その理論上の位置づけはどのようなものか、ということについては、いずれ記事を」などと書いたが、「いずれ」はだいぶ先のことになりそうで、ある意味安堵。

おまけ。Remi van Trijpというコンピュータ言語学系の抜群に頭の切れる研究者がいる。彼がブログ上で"Fillmore's dangerous idea"というエッセイを公開している。フィルモア流の構文理論についてその革新性を評価しているので、興味がある方はどうぞ。なお、同名のショートトークもYouTubeに上がっている。



2022/03/28

フレーム意味論の貢献

 松本曜・小原京子(編)『フレーム意味論の貢献−−動詞とその周辺』開拓社

 

Fillmore's childrenによる研究論集。おすすめ。フレームとは何か、その理論上の位置づけはどのようなものか、ということについては、いずれ記事を書きたい。


2021/12/31

構文と主観性

天野みどり・早瀬尚子(編)2021『構文と主観性』くろしお出版

本書は同編者による『構文の意味と広がり』(2017)の続編と言える(こちらもおすすめ)。題名のとおり、どちらも第一線の研究者による構文研究を集めたものである。一つの枠組みを厳密に前提としてはいないが、「形式と意味の慣習的なペア」として構文を見るという点では共通している。余談ながら、天野氏は日本語学、早瀬氏は英語学が本来の専門で、本書は二つの研究伝統の交流を見せてくれる。

 


認知・機能言語学、特に英語学と日本語学の分野で、良質なケーススタディーを読みたい向きにはとりわけすすめたい。学部のゼミや大学院で毎回一編ずつ取り上げてディスカッションとか良さげだ。

なお本書の「隠しテーマ」の一つは(いや、隠れてもいないかw)、文法化あるいはより広く機能拡張である。個人的には小柳氏、青木氏の論考が収録されているのは嬉しい。この方面に関心をもつ人はとりわけ本書の所収論文に新鮮な発見の喜びを見出すことだろう。

それでは皆様、どうかよいお年を。

 

2021/10/18

危機言語・少数言語・言語接触

標記分野は私の専門外である。が、「言語」の定義についての問題提起を授業で行うときに紹介する本がいくつかある。その都度本棚から引っ張り出してくるよりはということで、まとめて紹介。もちろん、網羅的なものではなく、たまたま自分の研究室にある本、それも日本語で出ているものに限って並べてみる。【2022年5月追記 下記の本はまとめてSFCメディアセンターに寄贈した。機会があればどうぞ手に取ってください】

金子享 1999『先住民族言語のために』草風館
 


ダニエル・ネトル & スザンヌ・ロメイン 2001『消えゆく言語たち』新曜社

 


宮岡伯人・崎山理編 2002『消滅の危機に瀕した世界の言語』明石書店
 


ニコラス・エヴァンス 2013『危機言語:言語の消滅でわれわれは何を失うのか』京都大学出版会
 


呉人徳治・呉人恵 2014『探検言語学:ことばの森に分け入る』北海道大学出版会



人によって意見の違いはあろうが、個別言語、とりわけ危機言語・少数言語のドキュメンテーション、ひいては言語の継承や復興に貢献することは、言語研究の中でも最も尊い作業である、と私は考える(フィールドワーカーに敬礼)。自分はその道に進まなかったが、博士論文の指導教授であったJames A. Matisoff氏(主査)、Johanna Nichols氏(学科外副査)は極めつきに優れたフィールドワーカーであり、もう一人の主査であったCharles J. Fillmore氏と並んで、最も尊敬する言語学者である。

 


 

言語の消失は生物種の絶滅にしばしばたとえられる。その一方で、新種の生物が発見されるのと同様、新たに「発見」される言語もある。

小馬徹 2019『ケニアのストリート言語、シェン語』(神奈川大学言語学研究叢書10)御茶の水書房


アフリカの多くの地域で共通語となっているスワヒリ語が、それ自体特定地域の集団の伝統言語でなく、一種のlingua francaとして成立したという話は聞いていたが、その変種がさらに元となって「国民(の一部)」のアイデンティティと結びつく「言語」が生まれる…というストーリーは非常に興味深い。まだ読み始めたばかりなので、紹介にズレがあったらご容赦。紹介せずにはいられなかったということで。

 


 

ダニエル・ロング 2018『小笠原諸島の混合言語の歴史と構造--日本元来の多文化共生社会で起きた言語接触』ひつじ書房

「日本に言語はいくつある?」という問いは、アイヌ語、朝鮮/韓国語、沖縄/琉球語、日本手話などを別にしても、「方言」の境界を考えると簡単な問いでないことがわかる。また、日本においても重層的な言語接触のケースはあり、本書はその貴重な研究となっている。

 

2021/10/17

言語類型論

堀江薫・秋田喜美・北野裕章 2021『言語類型論』開拓社

同社から出ている「最新言語学・英語学シリーズ」の第12巻。 このシリーズ、全22巻として企画されている。この種の企画は最終巻がなかなか出なかったり、途中の巻がなぜか遅れたりで、気がつくと完結までに10年を軽く越えて…などよくあるのだが、このシリーズに関しては堅調に出ている。目出度いことである。

 言語類型論という、裾野が広くなおかつ進展も速い分野の概説を書くことは容易ではないが、本書はこれまでの入門書で取り上げられてきたスタンダードなトピックと、著者たちの独自の貢献(堀江氏は日韓対照および従属構造の研究、秋田氏はオノマトペおよび移動表現、北野氏は談話から見た文法)と、両方のバランスのよくとれたものとなっている。

 

2021/08/21

なぜヒトだけが言葉を話せるのか

 トム・スコット=フィリップス 2021『なぜヒトだけが言葉を話せるのか』東京大学出版会

原題はSpeaking Our Minds. 言語進化についての研究は今世紀に入ったあたりから爆発的に増え、正に百家争鳴の時代が続いた。今なお盛んな分野であるが、ひところに比べると「何でもあり」状態からは脱却できたようだ(が、直近の研究成果はあまりチェックしてないので実は違うかもしれない、と予防線を張っておく)


そんな中、人間言語の本質について掘り下げた考察の一つが本書。他者の心的状態への洞察が人類が得た最重要の認知能力であるとする考えは、本書の著者が研究員としてすごしたマックス・プランク進化人類学研究所のマイケル・トマセロが幾多の著作を通じて主張してきた(例えばこちらを参照)。本書は言語学だけでなく、コミュニケーションと関わりのあるあらゆる分野の読者にとってお役立ちとなること間違いなし。

 

実験認知言語学の深化

篠原和子・宇野良子(編)2021『実験認知言語学の深化』ひつじ書房

深化は進化でもあり、また真価でもあり。はたまたヤクルトスワローズの監督の現役時代の決め球でもあり。

と、駄洒落を並べたが、編者の一人の篠原氏は駄洒落および言葉遊びの名手である。本書冒頭の序文は、壮麗な回文となっているのでぜひご覧あれ。 なおジャケットもなかなかの出来映えである。

 

内容は題名通り、認知言語学のさまざまな論点について、実験的方法で取り組んだ優れた研究を集めている。篠原氏と宇野氏は勤務先が理科系の国立大であり、ラボでの実験や物作りを推進する環境の中に身を置いているというのも大きい。だが、重要なこと(多くは新しいこと)を主張するさいに、客観的・経験的裏付けをとることは当然ながらあらゆる研究環境で必須である。本書はその様々な可能性を示してくれる。

なお、言葉遊びといえば、以前いろは四十七文字を使って歌らしきものを作ってみたことがある。その時は存在しない活用形を一つ作って誤魔化さざるを得なかった。無念。修正版を作るのは老後の楽しみにとっておこう。


2021/07/04

Complete with

"In the third storage unit, he discovers that someone has stored all of their wedding paraphernalia, complete with a mummified bride groom"

Margaret Atwoodの短編 "The Freeze-Dried Groom"から。ただ、全部は読んでなくて、Harrison, C. & Nutall, L. (2019) “Cognitive grammar and reconstrual: Re-experiencing Margaret Atwood’s ’The Freeze-Dried Groom’”. In: Neurohr, B. and Stewart-Shaw, L. (eds.) Experiencing Fictional Worlds. John Benjamins. 135-154. という論文中で引用されているのを見つけた(p. 141)。

元々は小説の分析のケーススタディを当たるつもりでこの論文を読んでいたのだが、分析の出来映えよりも、引用文につい吹き出した。オークションに出ていた婚礼道具のストックを検分していて、"mummified bride groom"が出てきたら"complete with"って、どんな前提で作業していたんだよと。現代英語の語法として、complete withは「足りないピース」を指すために使うわけではなく「本来想定されない追加物」を表す用例があるくらいは知っているが、これは何とも極端な例だ。

Harrison & Nuttsの論文で引用されているAtwood作品の抜粋はごく一部だが、ダークな風味&いい具合にヒネた文体(英国産の短編だしね)が気になる。Kindleのwishlistに追加しておくか。

 

2021/06/06

「コロナ禍」と社会言語科学

社会言語科学会での特集企画とのこと。やっぱり来たか。東北の震災の時は、同じ日本に住んでいても、地域や立場によって「他人事」と「我が事」の間の感覚のギャップが大きかったが(あの年の3月末に関西に学会で出張した時の違和感は今も鮮明に記憶している)、「コロナ禍」はどうだろう。震災の時と違い、純粋な観察者はどこにもいない。「他人事」と「我が事」は二分割でなく、さりとてグレーに混じり合うでなく、錯綜した相互浸透を成しているように思える。どんな研究が出てくるか今から興味津々だ。