通常科学というものが仮説、実験、検証、という手続きを踏むものだとすれば(もちろんここに「思弁」や「形式化」も加わる)「実験的」という形容をするのは冗長とも言える。研究者個人の内省に訴えることが効率的な「心理実験」であるというような戯れ言はもはや通用しない。本書はそんな時代の過渡期にあって、アプローチは多様であるが、語用論の諸問題に通常の意味で「経験的」な方法で取り組む試みを集めたものである。
方法論の探索という点では、第二部が演習などで使いやすそうだ。章題だけ再録すると:Event-related potentials, Self-paced reading method, Experimental pragmatics using Functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI), Cross-linguistic formal pragmatics, Computational modeling, Statistical methods for experimental pragmatics, Experimental methods for the acquisition of pragmaticsとなる。全く同じことをやるのは難しいにしても、主観的移動、比喩的意味、ブレンディングなど、認知意味論の研究トピックもまたこうした方法論で研究することは可能だろう(興味深い実績が出ているのも知ってはいるが、今後はさらに増えることを期待)。