Keio SFCプロジェクト英語B

English--Reading the World with Critical Eyes

プロジェクト英語の世界へようこそ! 履修の際は以下の事を心に留めておいてください。
  • 授業の進め方など事務的な連絡は、授業中の連絡とSOLからのアナウンスでお知らせするので、見逃さないように気をつけてください。
  • 英語学習の参考となるような情報は、このセクションにLearning tipsとして上げていくほか、随時Tidbitsタグをつけてここのサイトに公開していきます。
  • 辞書は常に使えるようにすること。PCでもスマートフォンでも、素早く利用する習慣をつけましょう。下記を参考。
 
最初はこちらで選んだテキストを選んで読みます。それが終わったら、各自が興味をもった記事を選んでてディスカッションリーダーを担当するという進め方にします。

英語辞書について(ノーマル編)を公開しました。初歩的な内容ですが、PC上での辞書利用について参考にしてください。
 
Learning Tipsをこのページの下で随時書き足しています。適宜お役立てください。
 
英語のニュースソースについて。授業で最初に取り上げるThe Economistは印刷版を大学でとっています。ただ、電子版は大学としての法人契約はしていません。個人ではメール登録などの簡単な手続きでアカウントを作り、週に限られた数の記事を無料で読むことができます。各自で登録をして、自分で読んでみて、授業で取り上げたい記事を選んだりすることをおすすめします。なお、ウェブ版のThe Economistは音声ソースもついているので(全部の記事ではないにせよ)、耳で聴きながら読むとリスニングのトレーニングにもなります。
 
もちろん、他にもオンラインで読める(制限はソースによって違いますが)ニュースはたくさんあるので、幅広く目を光らせつつ、プロジェクトに発展させるトピックを選んでいってください。



記事の選び方

-- 紙媒体でも存在する新聞・雑誌(Economistの他に週間の雑誌はTime、日刊の新聞はNew York Times、The Guardian, Japan Times、などサイトによって制限のかかり方が違いますが色々あります)
-- TV媒体のニュースサイト(例えばBBCは新聞と同じように読めるニュース記事がたくさんあります。アメリカならABC, CNNなど全国ネットのニュースがあり。文字と音声両方あるサイトも多い。これら元々放送局ソースのサイトには「教養番組」的な、詳しいルポコンテンツもあり、参考になります)
-- ネット独自のサイト(think tank系のレポートやブログサイトも含む)
-- どれについても、ウェブ上で直接視聴できるニュースの他、Podcastのフィードをしている所が多いので、適宜利用しましょう(下記「ニュース記事を耳で聴く」も参照)。
 
この他、googleに「英語 ニュース オンライン」など入力するとけっこう出ます。それに「学習 上級」など、関心に合った語を足してしぼるのもよいでしょう。また、より学術的なものであれば、自分の興味のある分野について調べていると、その世界でよく読まれているサイトや極端に専門的でない雑誌に出会います。例えば、心理学ならばPsychology Todayなどは一般向けに研究を紹介したものです。同様のものは他の分野でもあるでしょう。

ちなみに、キーワードを組み合わせを変えてgoogle検索した結果出くわしたまとめサイトを少し紹介します(網羅的とは言えませんが)。

英字新聞・ニュース雑誌サイト リンク集
英語学習におすすめの時事ニュースサイト15選
無料で読める英語ニュース(記事)サイトまとめ30選



参考:ニュース記事を耳で聴く

インターネット上には、ニュースサイトや色々な分野のトークを配信するサイトがあります。興味のある分野のキーワード+Podcastを検索ワードにすると、音声や動画の配信が視聴できます。これらは音声や動画とともに、文字テキストの記事もあるので、読解のスキル向上にも利用できます。すぐに思いつくもの(というか単に私のお気に入り)を上げます。TEDは高校の授業で使った人も多いでしょう。Scientific Americanは科学関連の有名な雑誌ですが、ニュースの配信もしています。どれも2〜3分と短く、文字起こし(transscript)も用意されているので、気軽に聞けます。環境や経済もカバーしています。Science AAAsも同じく科学系のニュースサイト。NASAはトップメニューからNASA TVやDownloadsの下のPodcastsが英語学習には役立ちます...が、単にGalleriesの美しい画像を眺めているだけでも楽しいのでおすすめ。加えて、独立系のニュースサイトNPRとイギリスの代表的ニュースソースBBCのリンクを挙げておきます。アメリカのニュースサイトとしてはVOAがよく知られています。ここも英語学習のためのエクササイズつきのニュースページがあるのでおすすめ。なおBBCやVOCは国営放送なので、それぞれの国家の思想なり利益なりが背後にあることも付言しておきます。

他にも気がついたものがあれば、随時紹介していきます。



Learning tips

英語学習について、役に立ちそうなことを順不同に並べていく。具体的な事項というより、見方・考え方が中心。何十年も英語を教えていて、この程度のネタしかないのかと言われれば、そこは笑って誤魔化すしかないが、害悪になることは書かないと思うので(たぶん)、ユーザーは斜め読み上等、自分なりに使えそうな情報を取り入れてくれればOKである。

Tip 0 -- Tip of an icebergとOne-for-all & All-for-one
 
・物事は全体があって部分がある。では自分にとって英語学習の「全体」のイメージ=長期的なゴールは何だろうか? もちろん人によって違うだろうが、それを意識した上で、今学期とっている授業がどのような位置にあるか、それは自分が描く全体像の中のどのパーツを強化するのか、考えてみるとよいだろう。学習の全体像のイメージをもつことで、学習意欲もプラスされる。クラスでの授業は英語スキル向上のための活動の「氷山の一角」である。
・言語はノッペリしていない。カジュアルな場面とフォーマルな場面では当然言葉づかいが違う。旅行先で友達を作るための会話と、プレゼンでクライアントを説得するための会話が同じはずがない。(成熟した)人間の社会活動というのはそういうものだ。言語の使い手として、さまざまなスタイルに対応できることが理想である。母語ではそれができている。この意味で、クラスでの活動は英語という言語のいくつもある顔の一面を学ぶことになる。
・言語スキルという観点からは、いわゆる4技能(speaking, listening, writing, reading)もまた「全体」と「部分」の関係と言える。ここで気をつけたいことがある。これらの技能は、机の引き出しのように別々に収納されていて、お互い関係ないというものではないということだ。これは考えて見れば当たり前のことで、スポーツに例えれば、腕と脚は別のパーツだが、腕の振りをよくすることで走りも格段に良くなる(これから言語をスポーツや楽器の演奏に例えることが何度もあるが、それはどれも身体運動だから)。授業では全部の技能について等しく時間をかけて実践するのは難しいが、4技能の一つが向上すれば別の技能も向上すると思えば、モティベーションも維持できるのではなかろうか。

Tip 1 -- パラグラフ・リーディング&ライティング 
 
・現代日本語でも「段落」はあるが、英語のパラグラフはより明確な目的をもった単位である。英語圏の教育(特にアメリカ)では、「国語」の一環として、パラグラフ単位のライティングの訓練を受ける。文章を作る時には、最初にアイデアを出す。順不同で、いわゆるブレーンストーミング式に、思いつくことを並べていく。次に、そうしたバラバラのアイデアを関連づける。マインド・マッピングというジャンルのアプリがあるが、それはこうした作業のためのツールだ。アイデアがグルーピングできたら、次は順序立てて並べる。これで「起承転結」の出来上がりである。そうした形でアウトラインが出来たら、次は一つ一つのアイデアを肉付けして文章化(あるいはスライド化)していく。このプロセスで、「一つのアイデア」を展開したものがパラグラフになる。すなわちone idea, one paragraphという方式だ。
・この「書き方」は「読み方」へとリバースできる。ライティングとリーディングの連動である。論文やニュースなど、事実や見解を秩序立てて述べる文章を読むときは、one idea, one paragraphの方式がそのまま使える。パラグラフの中で、肝心な要点を述べたものをトピック・センテンスという。ジャーナリズムのテキストだと、パラグラフの先頭に来る文が要点=トピック・センテンスとなることが多い(ただし常にではない)。だから、長い文章をざっと読んで要点をつかみたい場合は、パラグラフの先頭の文を拾って、論理のつながりは自分の頭で補う。それに続いて、必要に応じてパラグラフの中身、すなわち具体例、背景説明、根拠、反論、言い換えなどの「肉付け」を見て理解を進めることになる。目の前のテキストで早速ためしてみよう。

Tip 2 -- ボキャブラリーとリスニング(first approximation)
 
・リスニングは重要スキルであり、多くの人にとって苦手種目である。正直、私も得意ではない。できるアドバイスもありふれたものでしかないが、ここではまず一つだけ、とにかく語彙を増やす、ということを言っておく。知らない単語は認識できない。これは耳の問題でなく、知識の問題である。ニュース英語では固有名詞がたくさん出てくる。これは知らないとどうしようもない。
・大学に入るくらいであれば日常会話はだいたいわかるという人が大半だろう。「その先」はビジネスであれアカデミックであれ、内容の複雑なコミュニケーションになる。複雑な内容を耳で聴いてわかるためには中級〜上級のボキャブラリーを増やすことが必要になる。単語を覚えるという作業は言語学習の中でもたぶん最も退屈かつ成果の出にくい部分なのだが、これはそういうものだと割り切るしかない。
・授業ではニュースソースを主に取り上げることにしているから、耳でニュースなりレポートなりを聴きながら(もちろん、自分の興味に合わせて他のソースでもよい)、単語の学習も意識するとよいだろう。

Tip 2補足 -- ボキャブラリーとリスニング(first approximation)
 
・語彙を増やせと言ったものの、具体的な数字も出さないとただの根性論になりかねないので、一例を紹介。ソースは:
 
Nurmukhamedov, Ulugbek. 2017. Lexical coverage of TED talks: implications for vocabulary instruction. TESOL Journal 8.4: 768-790.

題名の通り、TEDのトーク400本(計100時間ちょい)を元データとして、どのくらいの語彙を知っていれば十分にトークが理解できるかを測ったもの。結論だけ言うと、固有名詞込みの語彙の場合、4000語レベルで全テキストの95%、8000語レベルで98%の単語がカバーされるとのこと。95%という数字はgood/reasonable、98%という数字はhigh-level/maximalな理解のために必要であることが他の研究で言われている。そんな次第で、語彙学習の目標は8000語を中間目標として設定することをおすすめしたい。なおTEDは専門的な内容を含むが、一般向けにわかりやすく話しているので、さらに本格的な学会発表や(留学先の)英語での専門的な授業となると、12000語あたりをいったんの到達目標にすることになる
・こうした数字は結局のところ、これまで色々なところで(英語教育の専門家の提言から個人の経験にもとづく印象論まで)言われてきたことと大体同じである。サンプルサイズや計算の仕方が異なってはいても、要するに統計による数字はほぼ同じ値に収束するということだ(わずか3%の違いが4000語の増加になるというのは驚きかもしれないが、指数関数のグラフを回転させた図を想像すればよい)。
・そうすると、語彙学習はどうするのがよいか?という問いに当然なるのだが、それについてはまた別項目で。

Tip 3 -- リスニング(お好みで)

・とりあえず The sound of silence。要点は一つ。リスニング向上に洋楽を。以上。ここから下はお暇な方だけどうぞ。
・「あなたはどうやって英語が上達しましたか?」というのは答えにくい質問の一つだ。まず、私は帰国子女でもなければ、親が意識高い系でも学歴高い系でもない。だから出発点においてのアドバンテージはない。強いて言えば、動機づけという点で洋楽が好きだったことくらいだろう。とはいえ、いつの時代も洋楽好きはいくらでもいるし、特別なところもない。そこでさらに強いて言えば、バンドをやろうとかではなく、たまたま言葉の方に興味をもったことくらいだろう。後は金がなかったことか(苦笑
・昔のLPレコードというものには、歌詞カードがついていないことがあった。特に、値段が安いという理由で輸入盤を買うとついてないことが多かった(学校帰りに、というか自宅のある下車駅を素通りしてアキバまで出て輸入レコードショップをぶらぶらしたものだ)。日本版の歌詞カードでも国内スタッフがかなりいい加減な聞き取りで書き起こしていたりしていて、(couldn't hear)とか普通に記載されていたり。だから楽器をやる人間が耳コピするのと同じで、歌詞を耳コピした、正確にはする努力をした(そして実らぬこともしょっちゅう)。あと、昔はコピー料金が高かった。人から借りたレコードに歌詞カードがついていた時は、コピーするのがもったいなかったので書写した。ある意味写経と同じ。で、手書きの歌詞を見ながら音楽を聴いてシャドーイング。「私の英語学習法」などといったことを正面切って語る気にならないのは、上記のごとく、具体的な手段のレベルでは全くもって再現性がない=役に立たない&馬鹿馬鹿しいことが理由である。
・そこで、リスニング向上のためのtipを現在でも通用するように抽象化・一般化して言えば、「自分の興味分野のリソースを(英語学習を意識せず)聴き込む」ことに尽きる。誰だって興味分野の二つや三つはあるだろう(一つもなければ、そして持った興味を追究する気がなければ大学をやめていいレベル)。ニュース、レクチャー、インタビュー、ドラマやナレーション、そして音楽と、ネット上には無数のリソースがある。文字が表示されるサイトも多い(ダウンロードできるところも)。要は英語リソースの視聴をSNSなどと同じく日常生活の一部にしてしまうこと。ちなみに私の友人の一人はTwitterで自分で発信することは殆どせず、英語で読める各国のクリエーターたちからのツイートをフォローしまくって新作情報などをいち早くゲットしている。彼自身は英語を「学習」しているという意識は全くないのだが、そういうのもありだということで。

Tip 4 -- ボキャブラリー(part one)

・使える語彙を増やすのは難しい。いわゆるボキャブラリー・ビルディング、通称ボキャビルは茨の道、というか修羅の道、というか終わりがない。多くの人は大学に入る時点で「ほどほど」の一歩手前くらいには来てるだろうから、6000語くらいは身についていると仮定して(英語が苦手で他の科目を武器に入った場合は4000語くらい?)、大学での第一歩は2000-4000語くらいを上積みすることになる。ネットで利用できる英語辞書については、こちらのリンク先記事に情報があるのでぜひブックマークを。
 ・では8000語を当面の目標にするとして、そこまで上積みするための2000-4000語はどうやって選ぶ? 答え:何でもいい。何であれ、そのレベルまでカバーされていそうな本を一つ選んでマスターすればいいのではないだろうか。「○○のための3000語」などといった本だ。TOEIC上級のための単語帳なら、ビジネスに関係しそうな語彙が多めかもしれないし、IELTS向けならもう少し教養知識に寄せた語彙かもしれない。どっちにしたって偏りのないものはないし(言いかえれば特色があるということ)、それだけでは足りないのは確実なので、そこからさらにビルドアップすればよい。
・とはいえ、実際の例もいくつか紹介しようということで、学術的によく吟味されたものとして新JACET8000とCEFR-Jの二つを挙げる。
・一つ目はJACET(大学英語教育学会)によるセレクション。ホームページからPublication > Other publicationsとたどっていくと紹介がある。二つ目は東京外語大学の投野由紀夫氏を中心にまとめられたプロジェクトの成果(CEFR-J公式サイト)。「リソース」のセクションにデータがある。CEFRのA1からB2までに相当する語彙が8000語弱ほど定義されている。どちらのサイトからも語彙リストはダウンロード可能だが、Excel形式のリストだけで例文も日本語訳もないので、そのまま学習に使えるわけではない。これら二つのリストに基づいた教材はいくつも出ているので、利用するとよいだろう。
・試しに手元にあるボキャブラリー学習のための本を一冊選んで、上のリストでの扱いを見てみよう。
 
 
この本に収められている、IELTSバンド6.0を目安とした単語リスト500から最初の10語を挙げてみる(p. 98):
 
relevant, whereas, hence, pension, equivalent, virtually, sequence, revenue, voluntary, lifespan

いくつ意味と用法を即答できるだろうか? バンド6.0というとCEFRでB2、TOEFL (iBT)で80台半ばくらい、つまり大学生として望まれるレベルだ。これらの単語と新JACET8000とCEFR-Jとの対応を見ると:

relevant 新JACET8000:あり CEFR-J:B2
whereas 新JACET8000:あり CEFR-J:B2
hence 新JACET8000:あり CEFR-J:なし
pension 新JACET8000:あり CEFR-J:B2
equivalent 新JACET8000:あり CEFR-J:なし
virtually 新JACET8000:あり CEFR-J:B2
sequence 新JACET8000:あり CEFR-J:B1
revenue 新JACET8000:あり CEFR-J:B2
voluntary 新JACET8000:あり CEFR-J:なし
lifespan 新JACET8000:あり CEFR-J:なし
 
興味深いことに、これらは全て新JACET8000では上位8000語ではなく6000語内に収まっている。つまりより基礎的ということ。CEFR-Jにhence, equivalent, voluntary, lifespanがないのは意外だが、lifespanはlifeとspanが分かれば問題ない(ざっとしか見ていないので、見落としがあったら御免なさい)。なお、これら二つのリストの他に、アカデミック・イングリッシュでよく参照されるのがCoxheadという人の編んだAcademic Word Listで、これは名前の通り学術英語を狙い撃ちして、頻度の高い570語を選んだもの。驚くべきことに、上に挙げた10語のうち太字で示した8語がCoxheadのリストに入っている(virtualがリストにはあるので、派生語として数えに入れた)。上で、参考書は何でもいいと書いたが、レベル設定が共通ならどれを使ってもある程度は重なっていることが端的にわかることと思う。
・大学生ならば、上のリストの10単語が全滅という人はまずいないだろう。 全部わかる人もかなりいると思う。要するに、「ほどほど」に持って行くのは思っているほど難しくない。現有戦力に少し積んでやれば、だいぶgood shapeになると思う。
・とりあえず、習得したいボキャブラリーのスケールについては、こんなところで。後は、何でもいいから、始動させるだけだ。

Tip 5 -- ライティング(part one)

言語のかなりの部分は無数の「言い回し」あるいは「決まり文句」から成り立っている。決まり文句といっても、多少の自由度があるものを含めて、準・決まり文句くらいに思うといい。口語であれ(Get out of here!; No way!; You know what?; You know what's you're doingなどなどあれやこれや)、文語であれ(This prediction, indeed, is born out by ...; Examples are primarily drawn from ~; These results point to ~; In this section, we will investigate in more detail ~などなどあれやこれや)、「流暢な言語使用者」はこれらの莫大なストックを持っていて、自在に使いこなす。母語の場合は、長年かけてそのストックを増やしていく(文法の基礎的な部分は数年で身につくにしても)。以上、前置き終わり。
・で、何をするか。ある種の「リバース・エンジニアリング」すなわち受信時にも発信のための意識をもつこと。「あ、こんな言い方するんだ」「これ後で使えるわ」と思った言い回しをメモする。媒体は自分の脳でも紙のノートでも電子媒体でもよい。一度で覚えようと思う必要もなく、何度も出てきたら覚えるものだ。口語では(特に母語では)、ドラマの決めぜりふを一発で覚えて、次の日に使ってみたりした人もいるだろう。本質は同じ。
・もちろん、新聞にせよ論文にせよ、中身そのものをコピペするのは重罪である。そうではなくて、上に少し例示したような、論をつなぐための汎用性の高い言い回しを自分のものとして利用するのがおすすめ。ライティングを実際に進めるときには、論旨そのものと同時に、言いたいことをこの決まり文句でこうやってつないで…と考えながら書くのもあり。まあ、いつもそうやっていると消耗するかもしれないが、意識の一つの持ち方として提案する次第。
・おまけ。各種の英語検定試験では、短いスピーチを披露することがある。そんな時、与えられたお題と合わなくても、予め暗記してきた内容を無理にこじつけて流暢さを演出しようとする人がいるが、それはちと苦しい。むしろ、言いたい内容そのものでなく、内容を導入したり連結したりするようなフレーズを覚えておいて、そっちを使いこなしながら言うべき内容をその場で考える方がもっともらしく見える(少なくとも、「自然な言いよどみ」になる)。日本語で面接する時だって、「まあ」「あのー」より「はい、それにつきましては」って言うほうが場に合うし、考える時間も稼げるでしょ?
 
Tip 6 -- ライティング(part two)
 
・英語のエッセイを採点する側からのアドバイス。採点基準はさまざまあるが、一例としてこちら(Sample Essay Grading Rubric)を紹介する。米ミシガン大学のLSA--College of Literature, Science, and the Arts, University of MichiganにあるGayle Morris Sweetland Center for Writingのサイト内にあるファイルである。大まかに言えば、アメリカの大学のいわゆる教養課程にあたる学生たちのための、essay writing指導の一環。pdfで1ページなので、そのまま印刷して目につくところに貼っておくのもよいだろう。
・上のほうでも学習には「リバース・エンジニアリング」的発想が有効と書いた。エッセイ・ライティングについても、採点者の視線を最初から意識しつつ書くのはアリ。ここでリンクしたrubricではorganization, development, mechanicsという大きな3つの評価基準があり、それぞれが細目に別れている(全部で8項目)。英語のレポートを書くときは、これらの基準を意識して進めることをすすめる。
・などと書いてはみたが、mechanicsだけについて多少解説する。ここでいうmechanicsとは文章表現の技術で、細目は(a) sentence craft & style(適切な語彙選択、多様な文構造、トーン&スタイル)、(b) mechanics (grammar & spelling)(綴り、句読法、文法のミスがない)、(c) mechanics (MLA)(文献などの引用が正確で漏れがないか)となっている。このうち、(b)-(c)は「ミスがないか」という観点からの評価だが、(a)は少し違うので、いくらか補足。
・言語活動は言うまでもなく多様なものだ。エッセイ・ライティングはその中の一つのジャンルであり、それなりの「お約束」がある(時代によっても、また分野によってもいくらか違うが)。くだけた会話のスタイルで論説文を書くことは評価されない。逆に、論文のような英語で日常会話をすることも不自然である(学者にはけっこうありがちだが)。それが顕著に表れるのが、上の(a)で挙げられている「語彙の選択」と「多様な文構造」である。エッセイの採点では「減点法」的な見方をしばしばするのだが(常にではない)、学生からすると「語彙や文法でミスをして減点される」ことを避けようとして、わざと単純な語彙や文法で書くことがある。確かに、大学生なのに(あるいは大学入試なのに)中学生レベルの単語だけを使って書き、すべての文は単文またはandだけを使った並列構造で書く、というケースは時折見かける。残念、ノーミスであってもこれは減点対象なのだ。もちろん、私の個人的な偏向などでなく、国際的な標準として。故に異議申し立ては「世界」に対して行うこと。もちろんあなたにその権利は保証されている。日本語を母語とする大学生なら、日本語でエッセイを書くことはあるはずだ。そこではそれなりに専門性があり意味が限定された語彙を使い、すべての文を単文にすることもないだろう。小学生レベルの日本語では(難しい漢字を平仮名で書くような場合も含め)、ノーミスであってもいい点はつかない。
・エッセイ・ライティングの教科書では、従属節の作り方と使い方にけっこうな分量が割かれている。「リバース・エンジニアリング」的発想で言えば、たとえテキストの読解がメインとなる活動でも、関係節はどんなところで使っているか、分詞構文や分裂文(it ~ that ~や、whatを使った焦点化文)は? といったことに着目し、情報の「めりはり」がどのようにつけられているかを考えるとよいと思う。まあ、常にそんなことをしていたら息が詰まるかもしれないし、そういう読み方をする機会を作るように、ということで。
 
Tip 7 -- 英文和訳
 
・諸悪の根源、英文和訳w オーラル重視の「コミュニケーション派」はもちろん、コンテンツ重視の「教養派」の間ですら否を突きつけられ、あはれ花びらながれ…じゃなかった(TM 三好達治)、悪魔を哀れむ歌(TM Rolling Stones)すら聞こえてきて、草生やしてる場合なのかという話ではあるが。
・私自身は英文和訳は嫌いだった。中学の先生が、50年前ということを思えば信じがたいくらい進歩的な人で、いちいち訳などせずにほぼダイレクトメソッドで「こまけーこたーいいんだよ」だった。高校に入って、逐一丁寧に和訳する授業は苦痛だった。もちろん、大学(文学部)に入ってからも。自分が英語を教えるときは訳読など決してしないぞと心に誓ったのだった。
・実際、今の仕事についてからも、英文和訳に割く時間はかなり限定している。コンテンツ重視のクラスでも、パラグラフ単位でトピックセンテンスを拾い、それを軸に論旨の展開を解説する、あるいはクラスから説明してもらうのが主である。だがそれは、「いざ」となったら英文和訳をするスキルがあるということを前提にして成り立っている。幸い、慶應の諸君はそのスキルは(ほとんど)みな備えている。だが、日本全体で考えればそうでない場合も多いだろう。英語学習のどこかの段階で(多分、初級から中級への間くらい?)、文の組み立てを正確に把握するスキルは身につける必要がある。細かいニュアンスの取り違いが惨事を引き起こした例は、歴史に残ることから日常の些末なことまで、多々あるだろう。そこまででなくても、研究をしていて他者の考えを細部にわたって正確に理解しているかは重大な関心事であるはずだ。場合によっては(私も含めて)翻訳書を出版することもあるわけで、少なくとも学術的なもので「こまけーこたーいいんだよ」は困るのだ。まあ、そういう翻訳もときたま目にするのではあるが…
・ダルくなってきたので結論。英文和訳は、統語論のトレーニングをする根性がないのであれば、代替的な「構文解析」のスキルとして教育すべし。そりゃあね、樹形図を描ければいいですよ? だけどSが(CPでも何でもいいけど)NPだのVPだの、IPがどうだの、WHのトレースがどうのって、中高生にはムリでしょ?(ましてやRRGの表記法なんて…) 英文和訳は文の構造を明示的に理解するための、迂回的ではあるがローコストの方法なのである。それは−−高次の思考が命題的表象をもつならば−−思考力の養成でもある。
・思えば(これも由良君美氏の授業で聞いた話)、福澤先生を始めとして、幕末〜明治初期の奇跡的な近代化の背景にあったのが、「漢文訓読」だった。当時の人々は、長年にわたって練り上げられた漢文=古典中国語の「構文解析」スキルを欧文に応用したのである。朝鮮では漢文を書かれた通りに読み、「返り点」を打つ習慣はなかったという。「戻って訳す」という、アンチ英文和訳陣営のターゲットとなるメソッドは、「漢文を読むように欧文を読む」という離れ業を可能にし、翻訳文化の興盛による日本の近代化を支えたのだった(それが真に正しい道だったかは別に考える必要があるにせよ)。慶應を始めとして日本のあちこちの大学に今も残る「原典講読」はその末裔と言えなくもない。
・そんな伝統も、継承されなければ消えるだけ。一世代、分断するだけではかなくも文化は消える。草を生やすのもいいが(よくないか?)、将来英語を教えるかもしれない者たちには、文化の種を多少でも提供したいものだ。