2020/04/02

シャーペン談義




まあ趣味の日記なんてのは自分のための偏執的なメモなので、些末なことでも書き留めておこうということで。

学生の頃、たしか渋谷の東急ハンズでステッドラーの製図用シャーペンを買った。これが大当たり、以後かなり長い間愛用した。ボディーの色(上半分のプラ部分)にちなんで、これを「青の一号」と呼ぶ。だが、プラ部分が劣化したのか、落として欠けてしまった。接着剤で補修すればよかったのだが、また買えばいいやと思って処分したのが運の尽き、10年以上経つと、もう同じのは売ってないのね。もちろんステッドラーは変わらず製図用品を出しているのだが、デザインも素材も変わってしまい、ちょっと「後継」として買う気にはならなかった。

その後、ドイツに1年いたときも、文具の置いてある店をあちこちでのぞいてはみたのだが、見つからず。というか、日本の都市部にあるような充実した品揃えの文具店はドイツでもあまり存在しないのだった。

しかし転機は訪れた。アメリカにしばらく住んだとき、画材屋兼文具店があって、そこで素晴らしいシャーペンを発見。これが愛用していたステッドラーの生まれ変わりじゃなかろうかというくらい、デザインが劇似だった。ボディーの色は違うが、大きさや持った感じがコピーじゃないかというくらいそっくり。以後、こいつが最愛の一本となる。これを「黒の二号」と呼ぶ。

だが残念ながら終わりは来る。筆記具、特にシャーペンはは下に落とすとほぼ確実にペン先から一直線に落ちる。でもって芯のガード部分が歪むわけだ。一度目、二度目くらいは注意深く押しつければもとに戻るが、工具もないし完全に戻るわけでなく、どうしても芯の出入りが悪くなる。それでも、使えないわけではないので、黒の二号も第一線を退役してときどきいじるくらいではあった。これを買ったときは学生時代ほど貧乏ではないから、どうせなら何本か押さえに買っておけばよかったのだが、そこまで気が回らなかったのが残念。日本で同じ製品がないか探したのだが見つからなかった。何より、使って少し経つと社名や製品番号のプリントが剥げ落ちて消えてしまったので、どこの会社からすらもはや不明となってしまった。

それから後は、ロートリングのシャーペンをメインにしていたが、最近はぺんてるの製品も気に入っている。この値段でこの使い勝手の良さは素晴らしい。これはさすがに2-3本押さえに買った。これが「グレーの三号」である。

つい最近、ふと思い立って、アメリカのアマゾン見れば黒の二号の正体がわかるんじゃ?ということで検索してみた。mechanical pencilで入れるとまずは何千と出るわけだが、0.5mmとか製図用=draftingとかしぼるとけっこう減ってきて、百のオーダーまで減ったところを片端からブラウズしたら、ありました。Alvinという会社で、まだ販売中。さっそく3本ほど即買いした(最初は興奮の余り6本にしたが、少し経ったら経済観念が帰ってきた)。1本10ドルもしないから安い買い物である。

このAlvinという会社、アメリカの会社だそうで、本社の公式サイトを見ると、日本での販売網はどうもなさそう。会社の沿革を見ると、第二次大戦中にドイツ戦線に派遣されていた創業者が、終戦後もしばらくドイツに残り、当地の文房具の質の良さに感動して、それから最初は小規模の輸入代行、後に自社でドイツ製に匹敵する良質な文房具を生産するようになったのだそうな。なるほど、これで腑に落ちた。青の一号と黒の二号が非常に似ているのは会社の方向性が理由か。

これに気をよくして、青の一号たるステッドラーもネット経由なら手に入るかも?と思って検索開始。あれこれワードを組み合わせて、ついに型番の特定までできた。アマゾンはさすがに日本、アメリカ、ドイツどれにも掲載がなかったが、日本だと骨董文房具の通販サイトがあって、過去には取扱いがあったことがわかる。しかし保存のよいもので7000円とか、マジか。じゃ海外はどうだろ、と思って見ていたら、ドイツのeBayに出品者がいることを発見した。お値段は15ユーロ。即買いだろ、これ。

だがeBayの利用にはまずアカウントを作らねばならない。そして支払いはPayPalだって?それはちょっと、いやそれ以前にサイトがドイツ語でしか書かれてなくて、英語に切り替えられない。辞書を引き引き、google翻訳に手伝ってもらいながら、とりあえず状況把握は何とかなった。いやー、google翻訳偉大だわ。日本語と英語だとおかしなミスもしょっちゅうあるが、ドイツ語と英語だとかなりスムーズかつ正確な文章が出てくる。とりあえず、この出品者にはメッセージを送ることから始めることになっていたので、やむをえず最初の数行だけうさんくささ全開のドイツ語で「ワタシ、日本人。ビンテージのシャーペン見つけて嬉しいヨ 買いたいヨ 後は英語でよろしく」なんてメッセージを送ったのだった。

結果、すぐにちゃんとした英語で返信。「実は昨日もう一人たまたま買いたいという人が出てきて、そいつは30ユーロ出すそうだよ」だそうで。ほほう、2年近く公開されていてどこからも買い手がつかなかった品物が、同時に突然2人から言い寄られるというのも、なかなかベタな設定だなぁと思ったよ。でもためしに「40ユーロまでなら出すから、発送は受取人払いで」とレスしたところ、あっという間におけーとの返事。うーん、やっぱもう一人の落札希望者は実在しないか。しかし送料には国際小包が20ユーロとか何とか、そうすると合計60ユーロに、海外送金手数料が数千円?なんて考えると、こりゃ高くつくもんだ。

でもって本日、アマゾンの予定配達日よりも数日早く、黒の二号が朝に届いた。明けてみれば、まごう事なき黒の二号が3本入ってきた。んじゃ、大枚はたいてドイツのeBayまで青の一号を注文することもないか。しゃんしゃん。

追記
 「青の一号」の正式の型番 Staedtler micrograph F0.5 77015
 「黒の二号」の正式の型番 Alvin Draft/matic No. DM05

後者は日本のアマゾンでも掲載されていたな。でも2680円は高いと思った。

(初出:January 2020)